セミナー

2025/9/16

〈セミナーレポート〉9/8「AIを活用する保育 クリエイティブな道具としてのICT」

スマートエデュケーションの森本です。
2025年9月8日(月)に開催した「AIを活用する保育」セミナーのレポートをお届けします!

今回は玉川大学教授  大豆生田啓友先生・宮城県仙台市 向山こども園 副園長 木村創先生をゲストにお迎えし、保育の中のAI」をテーマに子どもたちの遊びの中でのAI活用事例や、保育者の業務効率化のためのAI活用についてお話しいただきました。


↓ セミナー動画はこちらから。

向山こども園の紹介(2分29秒〜)

 向山こども園はAIやICTを積極的に活用している一方で、圧倒的なアナログ体験の豊かさを基盤としています。2万平方メートルの広大な敷地には森や竹林が広がり、子どもたちは自然の中で全身を使って遊んでいます。

 園庭は木村先生が自らショベルカーを動かして形を変え、子どもたちの興味や季節に合わせて形を変えていきます。
 起伏のある遊び場には雨が降れば水が溜まり、子どもたちは泥の感触を楽しんだり船を作って浮かべたりしています。また、ヤギやウサギ、ニワトリ、昆虫など多くの生き物も飼育されており、子どもたちはお世話を通して命を身近に感じています。

 向山こども園では、子どもたちが自分の拠点を作りながら遊びを広げています。拠点は大人が決めたコーナーではなく、子どもたちの発想で形を変えながら遊びが広がっていきます。園にはたくさんの素材や道具が用意されており、トンカチなども使用します。安全に配慮しながらも、子どもたちの経験の幅を広げるための環境が整えられています。

 こうした環境があるからこそ、子どもたちは安心して挑戦することができ、失敗も含めて子どもの心を育てる大切な経験になっています。

 向山こども園には「こみちゃん」という仕組みがあり、小学生から高齢者まで誰でもボランティア登録ができ、活動すると園内通貨のこみちゃん券がもらえます。この券は園内のカフェなどで使うことができます。保護者や地域の方が気軽に園に関わることで、子どもたちは色々な世代の方に出会い、新しい刺激を受けています。地域の方にとっても園が居心地のいい場所になる、そんな小さな地域社会が園の中に再現されています。

 こうした環境の基盤があってはじめて、ICTやAIの取り組みも子どもの育ちにしっかり繋がった形で提案できるのではないかと思います。

事例① こどもの遊びの中のAI:向山こども園(5分55秒~)

 まず初めに園での3年間をまとめたスライドショーを上映。年少から年長までの園での成長の様子をまとめたもので、卒園時に保護者の方にお見せしているものだそうです。木村先生はこの動画がAIで作った歌詞と歌をベースに作成されたものだと説明し、紹介されました。

 子どもの遊びの中でのAIの活用事例については3つのセクションに分けてお話いただきました。

1. 子どもの頭の中を整理しよう!

 最初のセクションでは、「子どもの頭の中を整理する」ための活用事例として、年長児の発表会の企画段階での活用を紹介されました。

 発表会の物語を相談していた時、子どもたちから多くのアイデアが出てきたそうです。アイデアを整理し、子どもたちの間でイメージを共有する目的で、先生はChat GPT(AI)を活用。 例えば「メガネのような形の雲」、「小人が雲で巨大なメガネを作っている様子」、「ブラックホールに吸い込まれる地球」など、子どもたちのアイデアを視覚化しました。
 子どもたちはこれらの絵を見ながら、話し合いを進め、最終的に「ブラックホール」というテーマに絞って劇を作っていくことができたそうです。
 子どもたちの言語能力を絵で補完することで、様々なアイデアが詰まった劇になった、と木村先生は説明されました。

2. 場のイメージを共有する

 次のセクションでは「場のイメージを共有する」ための活用事例として、ごっこ遊びの環境設定でのAI活用を紹介されました。

 年中児でのごっこ遊びが盛り上がっていた際、影響力の強い子が遊びをリードすることで、場所の意味付けが変わってしまうことがあったそうです。そこで、遊びの場である「オランウータンの森」の写真をAIに投げ、子どもたちの話に出てきた「ドラゴン」や「ボス」、「人間の基地」などを描いてもらい、それを実際にオランウータンの森に貼りました

 この絵が遊び場のランドマークとなることで、子どもたちは共通のイメージの元で、遊びを深めることができたそうです。絵が苦手な保育者にとって、AIが優秀なアシスタントになると感じた、と木村先生は述べています。

3. オリジナルの遊びのために

 最後のセクションでは「オリジナルの遊びのため」の活用事例として、アイドルごっこでのAI活用を紹介されました。

 女の子たちの間で盛り上がっていたアイドルごっこ。アイドルになりきる子どもたちでしたが、既存の歌を使うことが多く、衣装や振り付けなど、オリジナルの創作をすることが難しい状況でした。
 真似で満足するのではなく、子どもたちならではの創造力を発揮してほしい、そんな思いから、子どもたちが出してくれたキーワード(パフェ、キラキラ、かわいい、ふわふわなど)をもとに作詞し、AIに作曲してもらいました。これにより、子どもたちのオリジナルの遊びが生まれました。

 絵本の世界観をそのまま歌にして音楽遊びをするなど、保育者の力だけでは難しい音楽制作がAIによってより身近になった、と木村先生はお話しされていました。

あえてAIを活用しなかった事例も……

 一方で、木村先生はAIを使わない選択をした事例についてもお話してくださいました。園のお泊まり会にあたり、事前に動画を使ってアトラクションを紹介しようと考えた木村先生。しかし作成された映像があまりにリアルだったため、影響力の大きさを考えて使用を控えたそうです。AIの使用について考えるとてもよいトピックでしたので、ぜひ皆さまもNGになった動画をご覧ください!

大豆生田先生講評(29分5秒~) 

続いて、大豆生田先生より、事例に対して以下のようなご講評をいただきました。

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 常に新しいことにチャレンジされている木村先生の姿には、本当にもう敬服します。これからの未来は、人間ではないものとどう関係性を作りながら、よりよく生きていくかを考えなくてはいけません。その文脈の中で今日のお話があるのかなと思います。
 保育におけるデジタル活用については、子どもたちの体験ベースの世界(五感や関係性、アナログ的世界)を基盤としながら、道具としてのICT・AIをどう使うかが大きなテーマになるかと思います。
 人間の特徴としてのイマジネーション(想像)とクリエイティビティ(創造)を豊かにするためにICT・AIを活用する可能性がある一方で、子どもの想像や体験の幅を狭める可能性もあります。とくに「AIが作る音楽や絵が子どもたちにとって刺激が強すぎないか」「等身大を超えたイメージを提供することで、子どもたち自身の素朴な表現の価値が失われないか」ということをしっかり考えて検討する必要があるのではないでしょうか。
 また、AIから入ってアナログに繋げる場合と、アナログから入ってAIに繋げる場合の両方があり得るが、どちらにも行き来できることが重要だと思います。

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 木村先生の先進的な活用をご覧になり「知りたいこと、聞いてみたいことがたくさんある!」と大豆生田先生。スマートエデュケーションとしても、今後も議論を続けていきたいテーマだと感じました。

事例② 保育者の補助となるAI:向山こども園(38分48秒~)

後半は保育者の業務効率化のためのAI活用について4つのセクションに分けてお話いただきました。

1. 「アイデア出し」

 木村先生は、保育者がchat GPT(AI)やGemini(Googleが提供するAI)を使いやすくするために「遊びのアイデアジェネレーター」をご自身で作成されたそうです!
 これは、遊びの名前と対象年齢を入力するだけで10個アイデアを作成してくれるツールです。

 「アイデアを探す」を押すと……このような感じで、AIがヒントを出してくれます。

 保育のアイデア出しでつまづいてしまうのは、保育者にとってとても苦しい時間。AIがアイデアを出してくれることで選択肢が増え、思考が広がります。また人間が出したアイデアは否定しにくいですが、機械が出したアイデアなら「これは違うね」と言いやすく、ディスカッションがスムーズに進む利点もある、と木村先生はおっしゃられました。

 AIに慣れていない保育者の方が使いやすいように、ツールの見た目も工夫される木村先生のアイデアが素晴らしいなと感じました。

2. 音声入力によるデータベース化

 2つ目のAI活用事例として「音声入力によるデータベース化」を紹介されました。向山こども園では「フォーム(Google Form)」を使用し、日々の記録を取っています。

 子どもの名前、遊びの種類、5の領域と10の姿の項目を選択していき、最後にナラティブアセスメントを記入します。

※ナラティブアセスメント…相手(子ども)などが語る物語(ナラティブ)に耳を傾け、その人の経験や困難を語りの視点から理解し、解決や変容を支援するアセスメント(評価・査定)手法

 記入されたものはスプレッドシートのような形でデータベース化され、個人ごとの記録は個人帳票という形として整理されていきます。

 向山こども園さんがすごいのは、ナラティブアセスメントを音声入力で記録し、ChatGPT(AI)にそのテキストをなげ、文章を修正したり要録を作成したりしていることです。音声入力を使うことで、文章を書くことが苦手な先生でも負担なく記録をすることができ、作業に要する時間が大幅に削減されたということでした。

 これまでは写真付きのポートフォリオを保護者の方に渡されていましたが、細かいところまで伝えきれていない感覚があったそうです。現在は個人帳票をChat GPT(AI)に送り、1か月分を要約してもらうことで、一人ひとりの成長の様子を月末メッセージという形で作成し、保護者の方に見てもらえるようになりました。

 今後はカンファレンスの文章や療育センターへの提出書類を作成するのにAIを活用していく方針です。木村先生のnoteにまとめられたものもありますので、詳しく知りたい方はそちらもぜひご覧ください!

3. 紙ベースが好きな保育者向けのAI活用

 3つ目のAI活用事例として、「紙ベースが好きな保育者向けのAI活用」を紹介されました。デジタルの時代であっても、保育現場では紙のほうが見やすい場面がまだまだあります

 そこで向山こども園さんでは「見やすい紙の書類を作る」という観点でもAIを活用しています。「bolt.new」というツールを使い、連絡アプリで保護者からきた欠席連絡を、紙で見やすいようにデータを組み替えて印刷したり、備品等の注文履歴をわかりやすく紙で残してすぐに見られるような形にしました。
 多くの場合、デジタルデータを見やすい形で出力するためにはプログラミングが必要になりますが、プログラミングができなくても、やりたいことを簡単に実現できるのがAIの良さです。

4.  保護者への発信も記録から生成

 最後のAI活用事例は「保護者への発信」です。ここで使用しているのが「NotebookLM」というAIツールです。
 「NotebookLM」はユーザーがアップロードした資料やノートを要約したり、質問に答えてくれたりするツールです。しかも資料の内容を、まるでプロのナレーターが読んでいるような音声にしてくれます。(これが一番の目玉かもしれません)。
 向山こども園では、先生方がカンファレンスで音声入力した1週間分の記録を「NotebookLM」に投げ、ナレーションを作成。それを保育者が撮影した動画と組み合わせて「ドキュメントボイス」として保護者へ配信しています。
 

 以前は園のYouTubeチャンネルに担任の先生が登場し、子どもたちの様子や保育について語るということをしていました。有意義な内容ではありましたが、先生方の負担は少なくなかったそうです。
新たに「ドキュメントボイス」に取り組むことで、先生方自身が自分で話すことを自分たちで用意し、動画に登場するということはなくなりました。ただ、人に話すことで自分たちの保育を咀嚼していくところもあるので、このやり方を続けていくかどうかは、まだ検討段階とのことでした。

 以上のように、向山こども園さんは保育者の業務改善の手段としても、AIを積極的に活用されています。

大豆生田先生講評(54分10秒~)

大豆生田先生より事例に対して以下のようなご講評をいただきました。

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 木村先生のAI活用のベースには、記録の当事者性、つまり「私の心の動き」や「私が発見したこと」が何よりも大切であるという前提があると思います。AIにすべてを書いてもらうのではなく、保育者自身の一人称の表現や心の動きを大切にするということが基本です
 アイデア出しへのAI活用については、とても大きな可能性があるなと感じています。AIはまさに「有能な伴走者」なんだろうなと思います。「伴走者」は一緒に考えてくれる存在であり、特に音声入力は書くことが苦手な人の重要な武器になります。また、記録の要約整理や公的な記録の文章整理にAIを活用することで時間短縮できる点はとても重要です。
 一方で、紙の方が保育者にとってメリットになる場合もあり、手を動かすことでアイデアが出てきたり、保護者と対話する際に紙のドキュメンテーションがあった方がいい場合もあるため、紙ベースの良さも位置付けていくことが大切です。

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質疑応答(59分30秒〜)

Q:AIはとても便利なので、様々な場面で活用しようとしております。しかし保育の中でAIを活用するときは、初めからAIに頼ってしまうと自分で考える力が培われない懸念があり、子どもの成長を止めてしまわないかという気持ちもありますどのような使い方がよろしいでしょうか?

大豆生田先生:素材的なものであればAIが作成したものでもいいのではないかと思います。 

例えば音楽であれば、音楽そのものを楽しむというよりは音楽を元に表現活動をしたり、ステージがあったり。それがあることによって遊びが更に発展していくというような素材なるものに関しては活用するのは良いんじゃないかなと思います。ただ、AIが簡単に完成品を出してきてしまうようなもの(例:絵、塗り絵)はそこにたどり着くまでの過程がなくなってしまうので違うのではないかと思っております。

木村先生:年長児にもなると、子どもたちは日常生活で当たり前のように、商業ベースの完成度の高い音楽やアニメーションなどに触れています。例えばアイドルごっこにしても、子どもたちはやはり自分たちが生活の中で触れている音楽を使いたいという思いがあり、そこで提示するものが、童謡などの素朴な温かみのある音楽だけでよいのだろうかと感じる場面があります。もちろん、子どもたちの主体的な遊びを広げる「きっかけ」としての活用であることが大前提ですが、もっと子どもたちが求める世界観に近いものに触れる機会があっても良いのではないだろうかと感じています。日々葛藤しております。

Q:保育者が業務の中で使うAIに関して:アイデア出しへの活用の場面ではAIが保育者の有能な伴走者になってくれる可能性がありますが、現場の保育者が使う際に感じてしまう壁とはどのようなものですか?

木村先生:新しいものに飛びつくことへの抵抗感や、思った通りの回答を得るための技術的ハードルがある部分が壁だと思います。また、曲が書けたり、絵が得意な人ほど使わない傾向もあります。それは機械に負けてしまっているのではないか、という悔しさからの気持ちかなと思います。
また、AIに頼ることで楽をしているのではないか、という後ろめたさも壁の一つなのではないかと思います。

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向山こども園さんのようにAIを活用されている園はまだまだ少ないとは思います。AIを活用することによってアイデアがたくさん生まれ保育の幅がより広がったり、保育者の業務負担を軽減したりする一方で、子どもの想像力や素朴さを損なわないための使い方の工夫が重要だと感じました。

向山こども園の木村先生も、今回のセミナーレポートを書かれています。ぜひ木村先生のnoteもご覧ください!!

● 向山こども園 木村創先生のnote


最後に・・・

スマートエデュケーションでは、子どもの作品を写真に撮ると褒め方をアドバイスしてくれたり、次の遊びの展開や環境設定のヒントを提示してくれる「POKETTA(ポケッタ)」というアプリを提供しています。
写真を1枚撮るだけで活用できるAIアプリです。

アンケートにお答えいただいた園さんには、こちらの「POKETTA(ポケッタ)」を体験いただけます!ご興味のある方はぜひセミナー動画をご覧になり、こちらのアンケートにご回答ください!
よろしくお願いいたします。

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