
社会のデジタル化が急速に進み、子どもたちの生活にもICTがあたりまえのように溶け込む時代となりました。ICTに触れることが避けられない今、小さな子どもたちとデジタルとの出会いをどうつくるのかは、大人が向き合うべき重要な課題です。
今回のセミナーは玉川大学教授の大豆生田先生をお迎えし、「子どもの遊びをつなげ、広げる道具」としてのICTをテーマに、園の先生方と共にこれからの保育について考えました。子どもとICTとの関わりに悩まれている皆さま必見の内容です。
※こちらからセミナー動画をご覧いただけます。
KitSプロジェクトの趣旨説明(4分30秒〜)
まずはスマートエデュケーション代表の池谷から、今回のセミナーの主旨を説明いたしました。

ICTは「主体的・対話的な深い学び」を実現する道具のひとつではありますが、使い方には注意が必要です。
今回のプロジェクトでは、乳幼児期にもっとも重要な直接体験をさらに豊かにし、子どもの興味関心をベースとした遊びをつなげ、広げるためのICT活用を研究します。さらに、多様な実践事例をみなさんと共有することで、先生方が新しい保育に挑戦するきっかけを作ることも目指しています。
本題に入る前に、今回のプロジェクトで出てくる「ICT」の定義もご紹介しました。保育現場でのICTというと、登降園管理やドキュメンテーションなど、先生が使うデジタルツールという印象があるかもしれません。今回はそういったものではなく「こどもの遊び」の道具としてのICTにフォーカスします。アプリだけではなく、電子顕微鏡やプロジェクター、インターネットなども含まれます。

大豆生田先生によるイントロダクション(8分15秒〜)
続いて、大豆生田先生の「保育におけるICT」を考えるうえでのポイントについてお話しいただきました。

学校教育ではICTの活用が当たり前となり、乳幼児も家庭のなかで当たり前のようにタブレットやスマホに触れています。
そんな時代において大豆生田先生はICTと子どもとの出会いを考える本プロジェクトについて、次のように語ってくださいました。
「人の育ちに極めて重要なのは五感や身体性を通した学びです。一方で、AIをはじめとするデジタルとの共存は避けられない事態でもあります。そのようななかで、ICTは幼児期にふさわしくないと切り捨ててしまうのではなく、生活を豊かにする道具としてどう使っていくのか。二項対立で考えるのではなく、デメリットも考えながら、世界を広げる可能性を持つこの道具について、先進的な事例を通して考えていきたいと思います」
次に、園での子どもたちの遊びにICTを活用されている2園の先生に実践事例をご紹介いただきました。
事例紹介①福井県 第二早翠幼稚園 (12分00秒〜)
第二早翠幼稚園では、2015年に保育への ICT活用をスタートしました。園では主にクラス活動でツールの使い方を体験し、そこから子どもたちが自由に活用できる環境を整えています。年長では各クラスに6台ずつ設置し、子どもたちは朝の遊びの時間に自由に使っているそうです。
身の回りのものを使って音を作って遊ぶ「おとねんど」やGoogle Earth 、Googleの検索機能や電子顕微鏡、オンライン会議ツールMeetを活用した姉妹園との交流など、さまざまな活用事例をご紹介いただきました。
どの遊びも、五感・身体性を伴っており、デジタルとアナログを行き来しながら活用されています。和瀬田先生はデジタルだけに体験が閉じないよう、デジタルとアナログの往還に気をつけながら環境設定しているとのことでした。
最近は、コンパクトプロジェクターを使った光と影の遊びがクラスで盛りあがっているそうです。

映像を映すことだけに使われることの多いプロジェクターが、子どもたちの気づきをきっかけに、自分の身体や身近なものを組み合わせる影遊びへと発展していました。
和瀬田先生は最後に「ICTを特別なものとしてはとらえず道具の一つとして子どもたちの身近に置くことで、他のものと組み合わさって遊びが広がって深まっていくことを感じている。これからもICTを上手に活用してより良い保育ができるように 努めていきたい」と締めくくられました。
大豆生田先生講評 (28分00秒〜)
第二早翠さんの事例を聞いての大豆生田先生のコメントです。

特に「音」の遊びについては、普段の保育の中では意識化されることの少ない分野だと感じていたそうで、タブレットを使って音を作ったり拾ったりすることで、タブレットがないところでも音を意識するようになる、デジタルのおかげで体験ベースの遊びが豊かになる可能性を強く感じられたとのことでした。
また電子顕微鏡については、「裸眼で見ることの大切さを強調したい」とお話しされたうえで、見えないものが見える面白さが子どもの興味関心を広げていくだろう、とお話しされました。
事例紹介② 宮崎県 中央ヴィラこども園 (32分15秒〜)
中央ヴィラこども園には、子どもたちが自由に制作活動を楽しめるアトリエがあります。アトリエにはハサミや糊、折り紙などの素材や空き箱などの廃材、公園や海で拾ってきた自然物などが豊富に取り揃えられています。子どもたちは日々自由な発想で創造力豊かに制作活動に取り組んでおり、遊びのなかで虫取り網や釣竿がほしいと思ったら アトリエの材料を使って、すぐに手作りするそうです。
現在はこのアトリエの中にiPadも置いてあり、子どもたちは使いたい時に自由に使っているそうです。

今回は、そんななかで生まれたICTを活用した物語づくりについて紹介してくださいました。
夏頃のこと、ある子が自分の絵をハサミで切って紙人形を作り、遊び始めました。
それを見た周りの子どもたちも 人形遊びに参加。紙の人形を使った物語作りがブームになり、どんどん発展していったそうです。
面白い物語が次々と生まれているのに、残念ながら子どもたちが語る物語はその場限りで消えてしまいます。
担任の比惠島先生は「今のこの年齢でしか出てこない言葉や声お友達 とのコミュニケーションをそのまま残せないだろうか」という思いからICTを使って物語を残すことを思いつきました。
スマートエデュケーションの「mobie」というアニメーションが作れるアプリでお話しづくりをしてみようと考えた比惠島先生。子どもたちと一緒に遊びながら、動画づくりを進め、最終的に発表会の出し物へとつながっていきました。
発表会の体験によって、新しい興味も生まれ、今も子どもたちは自由な発想でICTを活用した遊びを楽しんでいるとのことでした。
発表会の様子も動画でご紹介いただきました。ぜひ、動画をご覧ください!
大豆生田先生講評 (45分45秒〜)

大豆生田先生はまず中央ヴィラさんの保育環境について「日常の遊びや生活の場に、多様な素材や道具がある。試行錯誤しながら作品を生み出すという文化があることが素晴らしい」とお話されました。
物語を見える化することは重要な取り組みであり、今回は、ICTを活用することで絵を描くことが苦手な子も関わりやすくなった。普段のものづくり、文化的な実践を子どもたち同士の遊びで終わらせるのではなく、先生のアイデアによってICTを使って共有し発展させられた優れた事例だと、締めくくられました。
質疑応答(49分30秒〜)
大豆生田先生や各園の先生方に、視聴者の皆様への質問に答えていただきました。ここでは、質問の一部を抜粋したものをまとめます。詳細はぜひ動画をご覧ください!
Q:自由時間にタブレットを子どもたちに渡すとYouTubeばかり見てしまいます。どうしたらよいでしょうか?
大豆生田先生:子どもたちが自由にタブレットを使えるようにすると何が起こるか。これは園によって大きな違いが生まれるところです。失礼な言い方になるかもしれませんが、園の遊びに面白いことがなければ YouTube を見るしかなくなってしまいます。他に面白い遊びがあれば、YouTubeを見るということにはならないんだと思います。こういった子どもの姿が見られるということは、日常の中に子どもたちが 本当にワクワクするようなことがある保育環境があるかどうかを考えるきっかけになるかもしれません。
第二早翠 和瀬田先生:園ではiPadを自由に使うことはできますが、YouTub を見ている姿は見たことがないです。 難しい折り紙を先生と子どもが一緒に見ながらやってみたり、という使い方でしかYouTubeを使ったことがないので、そういうことで子どもに注意をしたことはないですね。
Q:「道具」は使いこなす人の考え方(哲学)によって良いも悪いもなるように感じます。言い方があっているか?わかりませんが、「刃物はリンゴの皮をむく便利な物」だけど、「人も脅せる道具」になります。和瀬田先生の「道具」の考え方はとても共感いたしました。スマートエデュケーションさんは、どのように各幼児施設へ提案していかれるのでしょうか?
池谷:園児募集のためにICTを使った保育を園のウリにしたい、というような思いが強く見える園さんに対しては、導入をお断りすることもあります。私たちは全国の園さんを回っていますが、保育への想いをお伺いしたうえで、道具としてのICTのあり方をしっかりと考えて子どもたちに降ろすことができる園さんにご提供していきたいという思いでいます。中央ヴィラさんふくめ複数園を展開している協愛福祉会さんは、導入している園としていない園がありますよね?その辺りの経緯を教えてください。
協愛福祉会 理事長 横山先生:私自身は最初は保育の中でICTを使うということについてはアレルギーがありました。ICTに振り回されてしまうのではないかという危惧があったからです。ただ池谷さんと出会って「道具としてのICT」というビジョンに共感して導入を決めました。子どもの主体性を大切にするという園の方針を考えたときに、まだそこがしっかりと実現されていない園については、導入を見送っています。中央ヴィラについてはベースとなる保育がしっかりとしているので、子どもたちや先生が主体的に活用できるのではないかと思いました。
Q:例えばGoogleレンズなどですぐに答えられるものがベースになると、前段階の不思議を味わいながら調べていくなどの過程が抜けやすくなるケースがある気がするのですが、そのあたりのアドバイスを頂けますと幸いです。
大豆生田先生:とても重要な質問ですね。私は保育の中で図鑑を出すタイミングについてよく話します。子どもが虫に興味を持ったときに、すぐに図鑑に行くのがいいのかどうか。私なら悩むと思います。知識を得る前にまず虫に触れたり、ここはどうなっているんだろうと観察したりと、いろいろな角度から興味を深める時間が重要だと考えるからです。大人側の意識が非常に重要です。子どもが目の前のものごとにどれだけ豊かに興味関心を持っているか。どのタイミングでICTを使うことが最も有効なのかを、その時々で考えることが重要だと思っています。
KitSプロジェクトの経緯と展望 (1時間3分20秒〜)
続いて、弊社代表の池谷から弊社の事業について、少しご紹介させていただきました。弊社は子どもの道具としてのICTツール「KitS」のほか、園庭に自然環境を作る「ASOBIO」、保育を可視化するドキュメンテーションツール「おうちえん」を提供しています。子どもたちと先生が主体的かつクリエイティブに日々を過ごせる保育環境をつくるお手伝いをしている会社です。

「ICTは21世紀のハサミ」これは当社が12年間キャッチフレーズにしてきた言葉です。

ハサミはものづくりに使える便利な道具ですが、飛行機に持ち込むことはできません。幼少期の頃に先生が楽しい使い方や誤った使い方を教えてくれたからこそ、みんなちゃんと使えるわけです。 ICTも同じです。どんな道具にも裏表があるので、いいことも悪いことも含めて議論できる場を設けたい、というのがこのKitSプロジェクトの思いです。大人がしっかりと向き合うべきで、議論するなかで最善の方法を見つけ、みんなで共有しながら挑戦していくことを大切にしたいと考えています。
また、今回のセミナーには多くの養成校の先生・学生さんにもご参加いただいています。研究目的や講義の授業の中での利用については、弊社の教材を無償でご提供しようと思っています。ぜひご興味のある先生・学生さんいらっしゃいましたら、ご連絡ください。
子どもの道具としてのICT (1時間15分00秒〜)
最後に大豆生田先生から「NHKキッズ」(NHK Eテレからセレクトした、幼児・小学生向け番組が見られるアプリ)をテーマとした研究についてご紹介いただきました。
協力園に「NHKキッズ」の活用を依頼した結果、活用方法としては次の2パターンに分けられたそうです。

大豆生田先生が推奨したいのは、「第二」のパターンです。第二のパターンでは、一人の子の「これ面白い」というアイデアが協働的な学びにつながる様子が見られたり、クラスの一斉活動を中心とした園で、NHKキッズの活用をきっかけに子どもの声を聞く保育が生まれたというケースも見られたそうです。
「子どものワクワクから生まれた遊びが先生のワクワクにつながり、子どもと先生の共主体の保育が実現されていく。子ども主体の直接体験の機会がベースにあってはじめてICT体験も豊かになっていく」とお話しされました。このプロジェクトの詳細につきましては、ぜひ動画をご覧ください。
★ アンケートのお願い
本セミナーの録画を見てアンケートにお答えくださった方に、
・これまでのセミナーで発表された保育実践事例と大豆生田先生の講評
・上手にICTを取り入れるポイント
などをまとめた「ICTを活用した保育事例集」(全32ページ)をお送りいたします。園での研修や語り合いに、ぜひご活用ください。
皆さまからのご意見を次回以降のセミナー企画にいかして参りたいと思います。ご意見・ご感想をいただけますと幸いです。






