KitS

園児向けのITを活用した教育カリキュラム こどもモードKitS

2017年5月4日公開

「KitS」に取り組むこども園~社会福祉法人 さつき福祉会 さつきこども園(和歌山県和歌山市)~

以前はICT反対派。しかし偶然セミナーで耳にした「ICTを『道具』として活用し、子ども達の自己肯定感を高める」というKitSのビジョンがどうしても忘れられず、一歩を踏み出すことに。

--保育にICTを取り入れようと思ったきっかけについて教えてください。 以前は「ICTは子どもの成長を妨げる悪いもの」、「ICTを保育に取り入れるなんてとんでもない!」と思っており、完全なるICT反対派でした。自分のスマートフォンもうまく使いこなせない状態で、ICTについては特に興味もありませんでした。
そんな私が「保育×ICT」に最初に興味を持ったのは、あるセミナーで偶然スマートエデュケーション代表の池谷さんの講演を聴いたことがきっかけでした。実は池谷さんの後に控えている方の講演を聴きたくてセミナーに参加したのですが、外も寒いし、お目当ての方のお話が始まるまで、とりあえず会場に座って待っていようかと(笑)。ところがなんとなく池谷さんの話を聞いていると、「あれ?もしかして今なんか大切なことを言っていないか?」という気持ちになりまして……。8割は疑いの気持ちで話を聞いていたものの、不思議なことにその後もずっと池谷さんの話が心の中に引っ掛かっていたんです。
そこから、もしかしたら普段の保育で感じている課題を解決してくれるのがこのICTなのではないかという気持ちが芽生え始めました。
--池谷の講演のなかで特に印象的だったのはどんな言葉だったのでしょうか。 「自己肯定感を育てる」というキーワードです。日本人の若者は諸外国の若者に比べて自己肯定感が低いといわれていますよね。私自身は日頃の保育において「子ども達の自己肯定感を高めたい」という思いが強くあるのですが、どのようにその気持ちを育てていったらいいのかがつかめずに・・・。ですので、講演のなかで池谷さんが、「ICTを『道具』として活用し、子ども達の自己肯定感を高める」と言っていたのがとても印象に残りました。
それまで自分は「ICTは危ないものだ」と決めてかかっていましたが、その話を聞いて初めて、ICTは子ども達の可能性を広げる「道具」になるものだと知ることに。具体的にどんなことができるのかを見てみたいと思い、KitSの保育を見学させてほしいとスマートエデュケーションさんに連絡をしました。
--KitSの保育を見学してみて、いかがでしたか。 ICTを活用した保育というと小学校の先取り学習のようなイメージがあったのですが、予想していたような保育とはまったく違い、驚きました。一人ひとりがiPadに向かう時間はごくわずかで、多くの時間が子ども達同士での話し合いや、お互いのアイデアや作品を褒めあうことに費やされているのを見て、これは是非やってみたいな、と思いました。
ただ「一体誰がやるんだ?」という問題がありまして……。私自身はICTのことはまったくわからないですし、自信もなかったのですが、何度も周りの先生方と相談し、やりたいという気持ちがあるのであれば、とにかく自分自身が挑戦してみるしかないと覚悟を決めました。
--KitSの保育をスタートする前に、心配だったことはどんなことですか。 自分自身がiPadを使いこなせるようになるのか、うまく子どもたちに教えられるのかということです。
今でも、「突然アクシデントが起きて、準備していたことができなかったらどうしよう」という不安はあります。ただインターネットがつながらなければ、とりあえずはインターネットなしでできるアプリを使えばいい、など、少しずつ自分の中での“引き出し”が増えてきて、臨機応変に対応できるようになりました。

例年10種類ほどしか出てこなかった“サツマイモのつる遊び”のアイデアがKitSを体験したら30種類以上に。発想が豊かになり、友達同士積極的に協力し合う姿もたくさん見られるようになりました。

--KitSを始めてから、子ども達の様子に何か変化を感じていますか? 発想が豊かになったと思います。毎年、サツマイモのつるを使った制作活動をするのですが、昨年までは子ども達から出るアイデアが10種類程度でした。しかしKitSを始めた今年は30種類以上のアイデアが生まれました。もちろん昨年の年長さんと今年の年長さんの個性の違いもあるかと思いますが、少なからずKitSの活動が好影響を与えているように感じています。
もう一つ、KitSが掲げている「チームワーク力」という面でも、成長を感じています。日頃集中力が高くない子どもも、面白い課題があれば他のお友達と一致団結することができますし、とにかくKitSに出てくるものをどんどんやりたい、喧嘩している時間も惜しいから、問題があっても早く解決して協力しようという姿が見られます(笑)
また先生やお友達の話がよく聞けるようになりました。「静かにしましょう」という声がけが減りましたね。KitSでは新しい活動がどんどん出てきます。先生の話を聞かないと、何をしていいかわからなくなり、楽しいことができなくなってしまいますよね。「聞かなくてはいけない時間だから聞く」というよりは、「早く知りたいから聞く」という気持ちになっていることを感じます。自分が発表したり、お友達の発表を聞いたりする経験を繰り返すことで、「話す・聞く」のメリハリがつきました。
楽しく、興味を持って取り組める活動だからこそ、このような力がぐんぐんと伸びているのだと思います。
--保護者の反応はいかがですか? KitSがあった日は、子ども達が家庭でよく話をしているようです。子どもが楽しそうなので保護者の皆様も認めてくれているのだと思います。KitSのカリキュラムを開始する前には保護者向け説明会も実施しました。スマートエデュケーションさんも参加し、保護者からの質問に対応していただいたので、不安を感じさせることなくスムーズにスタートできたと思っています。KitS導入への反対意見はありませんでした。

『子どもは簡単なことから積み上げて学習していかないと理解できない』と思っているのは大人だけ。興味さえあればどんなことでも吸収できる素晴らしい力を子ども達が持っていることを実感し、自分自身の保育スタイルが大きく変わりました。

--先生ご自身はずっとICTに否定的だったということなのですが(笑)、KitSを始めてからご自身に何か変化はありましたか? ICTに対する姿勢というよりは、保育そのものに対する考え方が大きく変わりました。これまではとにかく丁寧に、知識の積み上げを大切にしながら保育をしてきました。例えば数字遊びのアプリを使う前には数字を教えなくてはいけないだろう、「つなげっと」というアプリも字を読めないと内容が理解できないので、まずは文字を教えないといけないだろうと思っていました。
ですからKitSを始めた当初はアプリで遊ぶ前に、画用紙などのアナログの道具を使って1から10までをしっかりと教えていました。ある時スマートエデュケーションの池谷さんが私のその様子を見て「なぜそんなことをしているんですか?」と不思議な顔をされまして……(笑)
「『子どもは簡単なことから積み上げないと理解できない』と思っているのは大人だけです。子どもは興味さえあればどんなことでも吸収しますし、全部がわからなくても興味を持ったところから自分の力で学んでいけるんですよ」と言われ、目からうろこが落ちました。
アプリは子ども達の知識などお構いなしに、いろいろな課題を提示してきます。そして子どもは、たとえすべてを理解できなかったとしても、素直に受けとめて、楽しみながら解決していけるんです。一から教え込まなくても、興味のあるところから学びを深めていける子どもの力に気づき、この素晴らしい力を育てるためには自分が変わらなくてはいけないと強く思いました。
それまでは「これは子どもにとって難しすぎるだろう」、「もう少し噛み砕いてあげなければいけないだろう」、と思いすぎていたのかもしれません。ICTという素晴らしい道具があったとしても、子どもと向き合う自分自身が変わらなければ何の意味もありません。 自分の殻を破るのはとても大変でしたが、ここにきてやっと「段階を踏んで教えなくては」という気持ちが薄れてきたように思います。
--今後のビジョンについて教えてください。 今の子ども達には、混沌とした世の中をたくましく生きていく力を身につけていかなくてはなりません。初めてのことに不安を感じがちな子どもが、KitSの活動で何度も「初めて」の経験を繰り返すことで、少しずつ積極的に取り組めるようになっている姿を見て、ICTの魅力の大きさを実感しています。
「明るく、元気に、たくましく」という園の教育方針に則り、これからもICTを道具として活用しながら子ども達が進んで学び続けられる環境を探求し続けたいと思います。

その他のキーパーソンインタビュー

評価・検証

21世紀型の幼児教育を
考える

東京大学大学院情報学環 准教授/NPO法人エデューステクノロジーズ 代表理事 山内祐平氏

導入・実証

子ども達の可能性を
引き出したい

株式会社コビーアンドアソシエイツ代表取締役/社会福祉法人コビーソシオ理事長 小林照男氏

導入・実証

子ども達に
成功体験の芽生えを

学校法人聖愛学園・聖愛幼稚園園長 野口哲也氏

社会福祉法人さつき福祉会・さつきこども園 総主任 矢野有美子氏 国立大学法人和歌山大学大学院教育学専修修了後、さつき保育園(当時)に入職。岩出第二保育所(現・おひさま保育園)勤務を経て、社会福祉法人さつき福祉会の総主任となる。保育現場での先進的な取り組みが新聞やテレビなどでも取り上げられ、注目を集めている。

http://www.satsuki-hoikuen.jp/
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